今日の質問
仕事をしていると患者様から実に様々な質問をいただきます。
その中には多くの方が誤解しているであろうことも多く含まれ、それについて書いていこうと思ういます。
キーワード
変形性関節症 ロコモティブ症候群 カルシウム タンパク質 ビタミン 運動 健康寿命74年 不健康寿命13年 自立した生活 丈夫にするには
【質問】
「骨が曲がってきたんだけど治らないかしら?やっぱりカルシウムとか摂ればいいのかしらねぇ?」
【答え】
「カルシウムだけで骨は治らない」
「えぇ!!そうなの!!?」
【解説】
骨の成分にはカルシウムが含まれています。しかも人間の身体ではカルシウムを生成することはできないのでカルシウムは食事から摂る必要があります。
骨の成分はこのカルシウムの他にも「タンパク質」があります。
割合的にはタンパク質20%、カルシウム70%、水分10%という感じです。
建物で例えると鉄筋がカルシウム、コンクリートがタンパク質、コンクリートを練るのが水分といったところでしょうか。
そして食事から摂ったカルシウムは吸収する必要があります。腸管から吸収を促すのはビタミンDです。ビタミンDが不足すると建物の鉄筋(カルシウム)が補充できなくなりもろくなります。
他にもカルシウムを骨に沈着させるビタミンK、タンパク質を合成するビタミンCなどが重要です。
つまり、カルシウム(鉄筋)だけ摂ってもそれを支えるタンパク質、ビタミン(コンクリート部分)がなければ丈夫な骨(建物)は出来ないという事です。
【できた骨を丈夫にするには】
さて材料は揃いました。骨を形成することは出来ます。
しかしせっかく骨が出来たのに脆くては意味がありません。丈夫な骨がいいですよね。
そこで骨を丈夫にするのが「紫外線」と「運動」です。
カルシウムを吸収するのに必要なビタミンDは皮膚に紫外線を当てることで作られ、骨を丈夫にします。
運動により脳から骨の形成に必要なホルモンが分泌されより効率的な骨形成がなされます。
【骨粗しょう症】
骨も皮膚や髪の毛と同じ体の組織です。なので新陳代謝を行います。
骨は昼に壊れて夜に作られるとされています。なので必要分の睡眠をしっかりとることで新陳代謝(鉄筋コンクリートの工事)が行われます。
基本的には1:1で壊れた分を補填する形ですがこのバランスが崩れたのが骨粗しょう症です。
これには性ホルモンが関係します。
性ホルモンが減少する50歳前後、特に女性は閉経に合わせて性ホルモンが急激に低下。
造設と破壊のバランスが傾き、骨の破壊が進みます。
そのためこの50歳前後を迎える前、20歳ごろまでに栄養、運動、睡眠で骨量を最大まで高めることで性ホルモン低下後も骨粗しょう症になるリスクを食い止めることが出来ます。
【ここまでのまとめ】
骨を作るのに必要なもの
・カルシウム70%
・タンパク質20%
・水分10%
・ビタミンK
・ビタミンC
・運動
・紫外線
・夜の睡眠
【曲がった骨とカルシウム】
曲がった骨=変形性関節症とした場合、食事でこれをもとの状態に戻せるかといえばそれは難しい事です。
成長段階で変形したもの(例えば小児の骨折)であれば有効に働くかもしれませんが、変形性関節は退行性変性といい年齢が進めば進むほど変形も進みます。これは非可逆的であり可逆(元に戻る)は出来ません。
では先の栄養と運動と紫外線を浴びることは無駄なのか?というとそうではありません。
【人生100年時代とロコモティブ症候群】
医学と科学の進歩により寿命は確実に伸びています。
例えば女性の平均寿命は87歳です。
その中も健康寿命というものがあります。健康寿命は「元気に自立して過ごせる期間」です。その平均は74歳とされています。
87歳-74歳=13歳
寿命は長くても元気に自立して過ごせない時間が13歳分あるということです。
その原因として運動機能の低下「ロコモティブ症候群」が問題になっています。
運動機能が低下する3大要素が骨の疾患です。
・変形性関節症
・脊柱管狭窄症
「不健康寿命」の13年間じわじわと進行する運動器の低下は心疾患や寝たきりのリスクが高くなります。
このじわじわと迫りくるリスクを減少させるのに食事と運動が必要なのです。
「曲がった骨をもとに戻す」のではなく「進行を遅らせる」ことで運動機能低下ロコモティブ症候群のリスクを抑え、健康寿命を延ばすことができます。
【結論】
曲がった骨はもとに戻すことは出来ないが将来のリスクに備え進行を遅らせる必要がある。カルシウムだけではなくタンパク質とビタミンを摂り、運動と紫外線を浴びるのが良い。
今からでも遅くない。健康寿命を延ばし、元気で自立した生活を手に入れよう。
【余談】
ハードな運動や筋トレをすると背が伸びないといいますが全くのでたらめです。
運動は脳下垂体前葉から骨の形成に必要な成長ホルモン(GH)を分泌します。
むしろ背が伸びる要因となります。もし伸びない、縮んできたなどがあれば別の要因を考えるべきでしょう。